2007'09.01 (Sat) 04:23
![]() | らき☆すた―らき☆すた殺人事件 (角川スニーカー文庫 183-3) |
※「らき☆すた殺人事件」の思いっきりネタバレですのでご注意を。
【More】
■「らき☆すた」と「らき☆すた殺人事件」の乖離
――――――――――――――――――――――――――――――
こなたたちは学校帰りに立ち寄った書店で殺人事件に遭遇した。
血しぶき飛び散るエレベーターに遺された物言わぬ被害者。
惨劇に立ちすくむかがみをよそに、こなたは遺体の上に置かれたカードを手に取りつぶやく―――
「配布予定中の超レアカードだよ」
「今、気にするところがそれかっ!!!!」
(裏表紙のあらすじより)
まあ「らき☆すた」ですからね、殺人事件って言ったって、名前もないモブ的なキャラか、せいぜい白石みのるが死ぬくらいでしょ?とか思ってたら、あの人とかその人とかが死にまくってて、つうかみんな死んじゃってビックリさせられすぎたわ!
……と、ネタバレと書いておいたのでネタバレしますが、実際は誰も死んでません。全て嘘の殺人事件です。かがみ以外はみんな死ぬんですが、それは全て嘘の死。かがみんに対するドッキリ企画です。
とはいえ、読んでる最中の読者としては当然そんなこと分からないので(分かる人も中にはいるでしょうが)、このキャラクターが死にまくりな事態には相当戸惑わされたものです。この流れ、この展開。「これはらき☆すたではないだろ」という気持ちが、非常に強く起こされました。
またキャラクター描写も……この辺、基本的には原作からもアニメからもそんなにブレていないのですが(こなたやかがみなどが、つかさの天然に対し、彼女は天然キャラだ、として「呆れてしまっている」という態度に固定されている点など、多少のブレはありますが)、友達が死ぬ・殺人事件に巻き込まれる・(自分にも友達にも)身の危険が迫っているのに、ロクに緊迫感も悲壮感も無いという点など、"ドッキリ企画だから当然"のことではあるのですが、だからこそ、「これはらき☆すたではない」と強く思わされました。
作られた態度・対応だから、普段の彼女らと異なるのは当然なんですけど、だからこそ、普段の彼女らとの『違い』がより明確に出て、そこに、普段の、ゆるゆるでまったりとした、自然体である彼女らが作り出す「らき☆すた」との違いが、大きく表出しているのです。
この辺は、確実に「わざと」やっておられると思います。
殺人事件シーン突入時に幾度か用いられる『非日常』という言葉。そして、本来の「らき☆すた」を語られるときによく用いられる『日常』という言葉。「らき☆すた」は正にその通り、何の変哲もない彼女たちの日常を描く作品です。
もの凄く端的に述べますと、この殺人事件は、『日常』ではないから、「らき☆すた」と乖離しているのです。
■非日常で浮き彫りになる『日常』
――――――――――――――――――――――――――――――
本作は、その『日常』を、仮初めとはいえ『壊した』作品。
もしも「らき☆すた」が大きな事件が起こる作品だったら……。
もしも「らき☆すた」の日常が壊れたのなら……。
そういった、"仮定"の世界を見れる作品でもあります。
そしてそれは、逆説的でもありますが、「普段描かれている『日常』と違うからこそ、普段描かれている『日常』の良さが分かる(また悪さも分かる)」ということでもあります。
かがみの中には、憎しみはなかった。
ただただ、悲しみだけが湧きあがる。
一緒に笑っていられた頃が懐かしかった。
懐かしさで。
涙が出る。
ラスト近辺の台詞ですが、この台詞に(つうかここら辺のシーンに)、日常の「良さ」も「悪さ」も集約されているでしょう。
日常が崩れたからこそ、日常の良さを知り、その時間が「懐かしい」と言える過去のものになってしまっていること―――あの笑い合えていた日常は、今はもう戻らない、かけがえのないものだったということを知り―――その日常に、涙が出る。
失われてはじめて分かる、日常の大切さ。日常の良さ。
しかしそれは、失われないと、ここまでの自覚はできないもの。
日常を日常として送っているだけで、はたして得られるのか。そのようなものは"ある"としても、ここまでの"自覚"として現れることはあるのか。日常の死に、懐かしさで涙が出て、こなたの死に、こなたの名前を叫ぶ。それは、当たり前のものとして日常を送っているだけでは、決して気付かない気持ちなのではないでしょうか。
「らき☆すた殺人事件」は、かがみに対するドッキリです。沢山のキャラクターが死にますが、それは全て騙しであり、かがみ以外にとっては日常の1イベントでもあり……かがみだけが、今までの日常を、失われたモノとして認識していきます。
それは、このオチに気付かず読んでいる読者にとっても、同じことです。
何の変哲も無い「らき☆すた」の日常が、どれだけ貴重なものだったのか。何の変哲も無いだけでは気付かなかった感情が、どれだけ存在していたのか。
そういったことを―――「らき☆すた」の魅力の一つとして語られる『日常』とは果たして何なのかを、かがみを通じて、我々読者も認識させられる作品でありました。
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■余談
――――――――――――――――――――――――――――――
「あ、ゲームだ」
「……『ひまわりのチャペルできみと』?」
「シナリオ、竹井10日……?」
(中略)
「まあ、折角だし、ちょっとやってみようかな」
(中略)
プレイ中……。
「……ぶはっ!! あはっ、わはっ、わははははははははははははっ! あーーーーーっはっはっはっはっは!! ふっ、ふっ、腹筋がつるっ!腹筋が破壊されつくされるっ!!」
「えっ!? なっ、なにっ!?」
お茶を持って戻ってきたつかさがもんどり打って大爆笑するかがみに、度肝を抜かれていた。
「らっ、ラブコメの……っ!コメディーがっ、ふっ、腹筋をっ、腹筋をっ、わっ、笑いすぎてっ、おっ、横隔膜が痙攣をっ! あはっ、あははははははははははははっ!! うぇっ、げほっ、ごほっ! あははははははは!!」
どんだけ宣伝してるんですか!!(ここ以外にも沢山宣伝がありましたw)(「らき☆すた」だから許されるネタとはいえ)
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なしおさんの話に感動
kanipan | 2007年09月02日(日) 22:01 | URL | コメント編集
>kanipanさん
ありがとうございます。
よそ様の感想など見ていますと、評価が低い(特に「らき☆すた」ファンには)ように思われる作品ではありますが、このような解釈なら、それなりに溜飲を下げられるのではないでしょうか。
正直、改めて読み返すと、ラスト数ページはかなり心動かされる内容でありました。『オチ』が日常に戻ることから、こういったことも、多少は射程に入っていたのかも……とは思います。
あと、「らき殺」読んでしまった所為で、僕の中で「ひまチャき」が購入予定リスト入りに(笑)(竹井先生にのせられてる!)
ありがとうございます。
よそ様の感想など見ていますと、評価が低い(特に「らき☆すた」ファンには)ように思われる作品ではありますが、このような解釈なら、それなりに溜飲を下げられるのではないでしょうか。
正直、改めて読み返すと、ラスト数ページはかなり心動かされる内容でありました。『オチ』が日常に戻ることから、こういったことも、多少は射程に入っていたのかも……とは思います。
あと、「らき殺」読んでしまった所為で、僕の中で「ひまチャき」が購入予定リスト入りに(笑)(竹井先生にのせられてる!)
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